ちっぽけながら,したたかな,ハンミョウ

表示 / 隠す 参考となる用語

シアン化化合物: 炭素と窒素からなる特殊な化合物のグループ.有毒なものが多い.

大顎: おおあご

捕食者: 他の動物を餌とする動物.たとえば,ライオンは,他の動物を餌としているので,捕食者である.さらに詳しくは

被食者: 他の動物から餌とされる動物.

ハンミョウはそれぞれの環境にどのように適応しているか

ハンミョウは細く長い脚をしており,信じられないほどの早さで地表を走り回る.オーストラリアの砂漠に生息する一種は,ずば抜けたスピードを誇り,世界で一番早く走る昆虫とされている.ハンミョウが獲物を追いかけるときのスピードがあまりに早いので,ハンミョウは目での情報処理が追いつかず,獲物を姿をちゃんとした像として見ることができない.つまりハンミョウは疾走している何秒間かは目が見えていないのである.そこでハンミョウは,今どこにいるのか知るために,ときどき立ち止まる必要がある.そして,動いている獲物の位置を確かめる.そのため,もし追いかけていた小さな昆虫がそのときたまたま動かなければ,ハンミョウはそれを見失ってしまうということもある.

Tiger Beetle Mandibles

もしあなたが小さな昆虫なら,この大顎にご注意.写真の拡大およびもっと詳しい情報は写真をクリック.

もしその小さな昆虫が知らずに動きはじめたなら,ハンミョウはたちまちその獲物に襲いかかり,長くて鎌状の大顎で捕まえ,それからゆっくりと噛み砕きはじめる.ハンミョウは小さな獲物の身体の中身を吸い取り,堅い外骨格は食べ残す.ハンミョウのそれぞれの種がもつ大顎の大きさは異なっており,従って,それぞれが捕まえる餌の大きさも異なる.小さな大顎をもつハンミョウが捕まえて食べることのできる昆虫は小さく,大きな大顎のハンミョウは大きな獲物しか餌にできないのである.そのため,大顎の大きさが異なるハンミョウなら,それぞれ食べる獲物の種類が違うので,同一の生息場所に数種が一緒に生活できる.互いに餌をめぐって争ったり,相手を追い払ったりしなくても,その場所で一緒に暮らせるのである.

適応 − どんな敵から食べられるのか?

Robber fly perched on a leaf

樹木の葉に止まって,おあつらえ向きの獲物が飛んでくるのを待っているムシヒキアフ.Jeevan Jose撮影.Wikimedia Commonsより.画面の拡大とさらに情報を得るにはクリックのこと.

ハンミョウの長い脚は,あるタイプの敵,たとえばムシヒキアブなどからは走って逃げるときに役立つ.ムシヒキアブ類は,木の葉や枝に止まって,餌となる昆虫が飛んでくるのを待っている.ハンミョウは地表を走っているかぎり,ムシヒキアブ類の攻撃は避けることができる.しかし,ハンミョウよりも速く走る捕食者,たとえばトカゲなどから追いかけられることもあり,その時は秘密兵器を使うことになる.折りたたんで隠していた飛翔用の翅を急に広げ,空中に逃げるのである.ほとんどのハンミョウは,20〜30フィート以上は飛ばない.トカゲの追跡を振り切るにはそれで十分なのである.しかし,飛び上がったハンミョウを襲うものがいる.そう,ムシヒキアブである.飛び立つべきか走って逃げるべきか.どちらの逃げ方がよいのかをハンミョウは判断できるだろうか?

もしハンミョウが走らずにじっとして動かない場合にも,捕食者から食べられないようにするための手立てが備わっている.ハンミョウの多くは,自分たちが走り回っている場所の地表とよく似た色彩をしている.このカモフラージュはハンミョウの天敵の何種類かには効果がある.他の種類のハンミョウは,背中に縦縞とか丸い斑紋を持っているものがいるが,こうした模様は,何種かの天敵にとってはハンミョウを昆虫だと認識することを難しくする.色彩とかの見かけで天敵を欺くことが難しいハンミョウの場合,単に身体の大きさを大きすぎたり,小さすぎたりすることだけでも,天敵回避の効果がある.何種かのハンミョウは身体が大きく,クモとかムシヒキアブが襲って食べるには手に余る大きさである.別のハンミョウは身体が小さく,鳥がわざわざ追いかけてエネルギーを使う気にならないほどの大きさである.

Tiger Beetle - Tetracha carolina

何種かのハンミョウは毒性のある化合物を作り,同時に捕食者に対して襲うことを思いとどまらせるための警告色を帯びている.このカロライナカラカネハンミョウTetracha Carolinaは,シアン化物を生産するが,これを食べた捕食者は中毒を起こして死ぬ場合もある.

捕食者を避けたり走って逃げたりすることが不得意なハンミョウもいる.これらのハンミョウは別の手立てを持っている.シアン化物という有毒物質を捕食者の口めがけて放出するのである.人間も含めて,シアン化物を飲み込んで平気な動物はほとんどいない.小さな捕食者なら死ぬこともある.シアン化物を防衛に使うハンミョウは,腹部がオレンジ色をしている.たとえそれほど賢くない捕食者でも,明るいオレンジ色の模様をしたやつは食事に適さないことを学べるはずである.その捕食者たちは,明るいオレンジ色をしたやつを食べようとして,口いっぱいに広がったまずい味を思い出すのである.

適応—熱の制御

ハンミョウが毎日直面している危険は分かりやすい.ハンミョウ同士の争いや捕食者からの逃避とともに,体温の制御,つまり身体が熱くなりすぎないことと,冷えすぎないようにすることも大切である.大部分のハンミョウが生活しているのは,日光が直接あたる地表で,とても高温になる場所である.なぜハンミョウはそのような高温になる場所で生活しているのだろうか.他の昆虫と同様に,ハンミョウは身体を温めて動き回るために太陽光を利用する.人間とは違って,ハンミョウは体内から暖めたりする空調設備を持っていない.もし身体が冷えている状態だと,獲物を追いかけたり,配偶相手を探したり,捕食者から逃げたりすることができない.身体が冷えている状態では,動けたとしてもゆっくりとしか動けない.一方で,そのような高温になる生息場所では,ハンミョウの身体はすぐに熱くなって,場合に依っては命の危険さえある.

Northeastern beach tiger beetle

アメリカイカリモンハンミョウ(Habroscelimorpha dorsalis)の明るい色の背中は,直射日光を反射することで輻射熱を防いでいる.写真の拡大とさらに情報を見たいときはクリック.

高温になる砂地に生息するハンミョウは,背中の白いものが多い.白色は暗色に比べて太陽からの熱の反射率が高い.ハンミョウには身体の下面に多くの白い剛毛をもっているものが多い.その白色の剛毛は砂地からの熱を遮断する働きをするのである

土の表面はそのすぐ上の空気よりもかなり熱くなるので,ハンミョウはその長い脚を思い切り伸ばして,つま先で立って,あたかも竹馬に乗った格好で,身体を地表からできるだけ遠ざける姿勢をとることがある.その場合,さらに太陽の方を向くように立つことで,太陽光を直接浴びるのは頭の先だけとなる.

なによりも,ハンミョウはどこで,どのように,いつ活動するかを選んでいる.それによってどれほど身体が温まるか,あるいは冷やされるかが決まってくる.時には,背の低い植物の影に入って涼んだり,そこから出たりして体温を調節しなくてはならない.もしこうした手立てがすべて役に立たないときには,日中に湿って涼しい砂地に穴を掘って潜り込み,夕方気温が下がってから活動を再開する.


参考となるハンミョウの幼虫の図.Barry Knisley作画.Wikimedia Commons提供.

あるハンミョウは幼虫段階でも,捕食者を避けるための適応として特殊な行動習性を持っている.その幼虫は巣孔が壊されて露わにされると,身体を輪状に丸めて跳ねる.すると風を受けて砂浜をころころと遠くまで転がってゆく.

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